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○ 日本の産業・ルール破壊するTPP

日本大学教授 高橋巌


GDP、雇用は大打撃
利益は米国、被害は日本国民に

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国民に情報をかくしたまま日本の枠組みを変える日米交渉が行なわれている

 TPP(環太平洋連携協定)とは、「原則として、即時または10年以内に段階的関税と非関税障壁等国境措置の撤廃を行なう貿易協定」であり、アメリカ等に本拠を持つ多国籍企業等の利害を反映して推進され、アメリカの対日要求に沿った自由化攻勢の「完成形」というべきものである。
 2006年にシンガポール、ニュージーランドなど4カ国による「経済連携協定(通称P4)」を皮切りに、現在はアメリカ、日本を加えた12カ国での交渉となっている。TPPの特徴は、以下の3点である。(1)農村・農林水産業や食品の分野にとどまらず、投資・サービス・すべての貿易・人の移動等「ヒト・モノ・カネ」全般にわたる21分野の包括的協定の締結を目標にしており、国境措置を廃しようとするものである。(2)およそ人間の生活のすべての領域にかかわる協定であって、従来の自由貿易協定が、自由化ルールを2国(地域)間で協議する方式であるのに対し、TPPは例外のみを定めるため、国の枠組みすべてを激変させる威力を持つ協定である。(3)その「激変」は、一般の市民にとって、ほとんどすべてが現状を「改悪」するにほかならない。

交渉妥結しても情報公開できぬ

 今ひとつの特徴は異常な情報隠匿(いんとく)性である。現在も、交渉内容の全容が不透明なのはそのためで、しかも交渉妥結後も4年間は情報を公開できないとされている。加盟国の市民生活全般にかかわる協定にもかかわらず、情報が非公開である点にTPP協定の異常性が凝縮されている。
 経団連などは、「輸出拡大と貿易ルールづくりを主導できる」とし政権のTPP交渉を支えている。しかし、TPPの関税撤廃によるマクロ経済効果は、国が2013年3月に発表したデータによれば、輸出+2.6兆円/輸入▲2.9兆円/消費+3.0兆円/投資+0.5兆円で、GDP増加は0.66%.3.2兆円にすぎず、TPP参加を推進した国の試算でもGDP1%すらふやせない。
 一方デメリットは、農水省試算でも農林水産業生産額が全体で約3兆円、農業の多面的機能は約1.6兆円減少し、食料自給率は約27%にダウンし、マクロ経済における「メリット」分の3.2兆円をほぼすべて農業のマイナスで相殺されることになる。くわえて、2013年7月「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」が公表した影響試算値によると、「全産業で10兆5千億円減、GDP4兆8千億円減、190万人が雇用喪失」「TPPで失うものは過去最大で、得られる利益は一番少ない」としている。いずれの機関からも、これらに対する具体的かつ有効な反証は示されておらず、TPPでメリットを論じる余地はない。

建設業者の仕事 健康にマイナス

 TPPがじょじょに労働力移動を加速していく可能性は高く、その場合、影響を直接的に受けるのが建設産業である。関係者からは、(1)国際入札範囲の拡大と公共事業の停滞、(2)非関税障壁の撤廃による外資参入の現実化、(3)外資参入による建設産業の秩序崩壊、(4)社会インフラの質的低下、の4点が懸念されている。
 日本の大手ゼネコンはTPP推進であるが、その背景は、海外受注機会の増加期待や労働力自由化だけでなく、こうした競争入札と外資参入をテコに大手ゼネコン主導の国内業界再編も想定される。
 TPPによるアメリカの最大の関心事は、金融・保険市場の拡大や知的財産権の確保、投資と企業活動の全面的自由化にあり、日本の郵貯・簡保や農協・生協・労働組合の共済など「国内にストックされたファンド」の国際金融市場への流動化や国民健保弱体化による保険業参入をめざしている。共済事業がこうむった「共済と保険のイコールフッティング」の影響なども、一貫してかけられたアメリカの対日攻勢の所産であり、国民健保では、混合診療の拡大などによりすでに影響が出ている。さらにTPPが恐ろしいのは、「ISD条項」により「自由貿易を侵害された企業」が国を訴える事態の多発が予想されることである。国内法よりTPPルールの方が優越する上に、こうした訴訟で企業が勝てば、それが長期にわたってルールとして固定化してしまう。すなわち、建設産業等各産業での慣行・ルールが破壊され、「TPPスタンダード」が横行する危険性が高いのである。
 私たちは、そもそも現政権が、選挙公約に反してTPP交渉を強行したことを忘れてはならない。生活と事業を守るために、今後とも最大限の注視と行動が求められる。


単純労働者の流入はないが地域建設業の振興は困難に
賃金底上げは後回し

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TPPで利益を得るのは米国の多国籍企業だけ(2012年メーデー)

 【本部・村松加代子記】建設業にかかわる交渉分野の一つ「政府調達」(公共事業、物品・サービスの調達)は、交渉が「まもなく終わりそう」(内閣審議官5月27日発言)とのことです。
 非公開のため交渉内容はわかりませんが、メリットを確実に受けるのは、海外受注実績のある大手などの建設業者です。TPPの目的が、「新興国の政府調達市場が開放されることにより、新興国のインフラ市場等にわが国企業が参入する機会がふえるものと期待される。〈略〉わが国はこの分野では開放が進んでいる国であり、攻めの分野となっている」からです。
 開放する公共事業の対象の拡大、基準額の引き下げなどで、国内公共事業への海外企業の進出が高まる可能性があります。それにともなって、地域建設業振興施策が交渉参加国の思惑で改廃させられるおそれ、ISD条項を使って(公契約条例など)国内法制度で投資収益をそこなったと判断した外国企業が国を提訴するおそれ、などが指摘されています。
 安倍首相は「政府調達・金融サービス等は、わが国の特性をふまえる」。太田国土交通大臣は「地域の建設業界の健全な発展に十分配慮する」と明言しています。地域建設業者が不利益をこうむらないよう、これら発言の実効性、具体化を追求していきます。
 建設技能労働者にとっては、TPP加盟新興国から低賃金単純労働者が入国し、国内労働者の賃金・労働条件が引き下がる懸念があります。
 政府は「単純労働者は議論の対象になっていません」(2012年3月)、「米国の政府関係者は、TPP交渉で単純労働者の受け入れや、他国の専門資格を承認することを求めることはないと明言しています」(2013年6月)としています。
 日建連は「『単純労働者』レベルの外国人労働者の流入は、安全・品質・環境といった質の低下、ひいては日本の治安や文化までもがおびやかされることにもつながる恐れもあり、慎重な対応が要求される」と政府に意見提出しています。これらに基づけば、新興国の低賃金単純労働者受け入れによる国内技能労働者の賃金・労働条件引き下げの可能性は低いようです。
 とはいえ、TPPの後押しでグローバルな企業間競争にさらされる大手建設業者は、国内の人口減少とあいまって、生産性や収益力の向上などを強くかかげています。この間、大手建設業者が創設した優良技能者認定制度や重層下請構造の改善への意向は、生産性の向上と連動した取り組みでしょう。技能労働者にしてみれば、全体の賃金の底上げは後手に回されています。生活できる賃金への引き上げを強く求めていきましょう。

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