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○ 社保加入と教育訓練が地位向上と賃上げに必要

建設産業の今後と建設労働組合の役割  芝浦工業大学教授 蟹澤宏剛
 6月21日から22日まで伊東市ホテル聚楽で開催した第41回幹部学校の蟹澤宏剛芝浦工業大学教授の講演要旨を掲載します。蟹澤教授は国交省社会保険未加入対策推進協議会会長をつとめるなど国交省の決める政策に深くかかわっています。文責・見出しとも「けんせつ」編集部です。


激減つづく技能労働者
若い人の入職促進が不可欠

 今日は日本で建設労働組合が非常にだいじな時代になったことと、これから国が何をするかをお話します。
 私は国交省でいろんな委員をつとめていますが、一番は現場の職人の方に今よりいい処遇で働いていただきたいといろんな活動をしています。
 私は技能者の地位向上と賃金を上げるためには、大きくは2つのことしかいっていません。10年以上前から、みんなが社会保険に入ることが必要といっていましたが、3年ぐらい前まではできるわけないと批判が多かったのが、ここ1、2年はほとんどなくなり、特に若い方は非常に話が前向きになりました。
 もう一つは教育訓練をきちん行ない、早く一人前になって稼げる、それから技能が継続的に向上するしくみをつくらなければいけないと申し上げています。
 今、建設投資は40数兆円ありますが、国交省などは今後もそんなに金額、市場の全体規模とも変わらないだろうといっています。
図1 ではこれから、10年ぐらいの規模で見ると職人はどうなるのか。国勢調査では(図1)建設技能者数は、95年からずっと減り続け、2010年まで100万人、3分の1が減ってしまいました。
 このペースでいくと、2020年、オリンピックの頃には41%、ほうっておくと2030年には66%が減り2010年に比べ3分の2がいなくなってしまう計算になります。これは2005年から2010年にかけての現象水準で人が減り、高齢者が自然減で抜けていくとどうなるかという計算結果です。
 一番の原因は、95年の一番下に60万人分ぐらいの枠がありますが、これは10代、20代の人の数です。これを2010年で見ると、20万人ぐらいですからもう半分以下、建設業で働く人が減っているのは、若い人が入ってきてないからなのです。
 ですから、東京土建が仲間を少しずつふやしているのは、組織力がましているということで、これをもっと強化することが重要です。
 そういった中で、(大手ゼネコンでつくる)日本建設業連合会はどういっているのか。今年度の目標は、基本的に国の方針と変わらず、やっぱり若い人に入ってもらうことです。そのために社会保険の加入を促進し、休日をふやし、4週8休をめざすとしています。

年収目標は40代で600万

 それから20代で手取り450万円、40代で600万円という年収目標も出しています。
 しかし、皆さんから「現場は全然違うんだ」と話をききます。日建連に直接きいても、今まではそうでも、これについては現場へ確実に下りるようにすると約束をしています。具体的な数値を出していることが、だいじなのです。


設計労務単価引き上げ
社保加入へ国は方針を転換

 次に、国の政策がですが、一番大本になったのは「建設産業の再生と発展のための方策2011」です。2010年にこの会議が設置されたのは、先ほどの国勢調査の細かい値が出て、このペースで減り続けると、もうオリンピックの頃には人が半減して建設産業が成り立たないことが数値の上で明らかになったことがあります。そのため国は、ダンピングをどうにかしようと、次にやはり大震災から見ても自衛隊・消防もだいじですが、一番は地域の建設業だと。真っ先に現場へ行っていろいろ片付けて、自衛隊・消防が通る道を造ったのは建設業ですし、それは国交省もよく分かっていて、実際に、除雪ができない空白地帯もいっぱいでているからです。
 それから、地方のまじめな規模の大きい機械を持っている会社がどんどんつぶれている数値が出て、これらを何とかしたかった、何とかするためには不良不適格業者を排除しなければいけない、では何を不良不適格と定義するかというと「社会保険未加入企業を不良不適格業者とする」とこの時に決まりました。
 そのいっぽうで設計労務単価(国、自治体等が公共工事の予定価格を積算する際に用いる単価)を急激に上げ始めました。
 今年の設計労務単価は上げる前にくらべ全国平均で28.5%、東京は4割近く上がっています。業界紙はコペルニクス的転回と書いていますが、それまでずっと設計労務単価は下がり続けていました。皆さんは、なぜ国が建設労働者の賃金を下げるんだとずっと主張されてきたんですが、国交省は調査して参考値を出しているだけとしていたスタンスを、この時から社会保険加入を前提した「政策的単価」に転換したのです。


労働者の賃金と区別し
その他必要経費41%と明示

 この方針がすばらしいのは、これが根拠のひとつですが、「建設労働者が受け取る賃金を基に設定している公共工事の設計労務単価が労働者の雇用に必要な賃金以外の経費を含んだ金額と誤解され、必要経費分の値引きを強いられている結果、技能労働者に支払われる賃金が低く抑えられているとの指摘がある」と私の意見を書いてあるのです。簡単にいうと設計労務単価は本人負担分の保険料までしか入っていないのに引かれているということです。
 もうひとつ画期的なのは、私の指摘で建設労働者の雇用にともなう必要経費の例として最低限41%ぐらいかかると示しました(図2)。それで、今の設計労務単価表は設計労務単価とかっこがきで必要経費41%をプラスした1.41倍した金額が並列表記されています(図3)。
 私はいつかこれを1.41倍した方を出して、してない方はかっこがきにしたら絶対に今よりよくなるといっています。たとえば東京の型枠大工の設計労務単価は平成24年は1万7000円だったのが、平成27年の単価は2万3500円です。もう4割高くなっています。そんなにもらっていない、払われてないよというのはしっています。でも国はこういう数値を示しています。そして、これを1.41倍すると、もう3万3000円、約2倍にもなります。特に公契約では1.41倍の方を使うべきだとずっと主張していますが、皆さんが遠慮して、それは上げすぎだから大変だといわず、どうどうと国が数字を出しているのだから、これを皆さんが出せという運動をしていくこともだいじになってくると思います。
 国は最初、局長通達を出しました。この通達には建設業法19条の3を明記、不当に低い請負代金の契約の禁止が書かれ、さらに法改正で強化されています。ようするに、優越的な地位を利用し必要な経費などを削除したような金額の契約は違反だということで、標準見積書の目的は、書面で提出したのに明確な理由がなく割り引いてきたら、法律違反、これがポイントです。
 その法律がいわゆる「担い手3法」で、これは公共工事品確法と入札契約適正化に関する法律と建設業法の3つ変えたのですが、だいじなのはダンピング防止と歩切りを根絶し、担い手を確保・育成する経費を払いなさい、確保・育成は国交大臣の責務と法律に書かれていることです。

図2 図3


担い手3法が成立、育成確保は大臣の責務
ダンピング防止を強化
標準見積書作成手順も公開

 今年度の国の重点的な政策は、許可業者の社会保険加入率100%達成の前倒し、それから公共工事での適正賃金支払いの取り組み、ダンピングと歩切り防止の強化。週休2日(4週8休)実現のための適正工期の設定、重層化対策では下請が3次までで、全員社会保険加入のモデル事業の募集も始まっています。
 そして就労履歴管理システムの実現です。これは建設業で働く皆さんにIDを持ってもらい、履歴や資格を登録し、それをきちんと評価しようという考え方のモノです。
 ついこの間、国交省はホームページに法定福利費を内訳明示した標準見積書の作り方をアップしました。経費のかけ方など具体的に書いてあります。国が示した、というのがだいじなポイントです。
 それから、社会保険加入に関するQ&Aが最近更新されました。加入期間が25年から10年に縮まったことや障害年金や遺族年金など、本人がけがで働けなくなったり、万が一、亡くなったときには保険料を1年間完璧に支払っていれば家族に出ると書いてあります。
 もうひとつの今後の重点政策は生産性の向上です。賃金が低い一番の理由は、やはり生産性が低いからです。産業別に時間あたりどれだけ稼いでいるか計算すると、製造業は建設業の倍以上、建設業より低いのは飲食業や介護福祉などごく一部でそれ以外はほとんど上です。
 なぜ労働生産性が低いかというと、利益も賃金も低く、経費もとってないのに、稼働率が低いからです。1日現場にいても2時間ぐらいしか仕事がないという仕事が特に野丁場のマンションには多くあります。ですから、5人工でやっていたものをまとめて2人工でできるようにすること、もうひとつは技能レベルも低下しているからです。
 生産性を向上させるには、働いている人の能力を向上させ、道具や機械を進化させる、多能工になるなど、実質働く時間・日数をふやし稼働率をあげることです。そのためはやはり社員化をして適切な教育訓練を行なうことが必要なのです。


組合は早くしくみを
適正な評価、訓練、処遇へ

 次に労働組合の課題です。一番だいじなのは、組織化された技能者の適正な評価と教育・訓練、そして努力に見合った処遇をはかる三位一体の制度構築です。これはアメリカもドイツも一番の基本です。そのために何が必要かを皆さんに考えてほしいと思います。
 新しく入る人の訓練校はいっぱいあるのですが、「ベテランをより熟練にする」という訓練がないのです。ユニオンやギルドは段階的にずっとあります。資格などではなく、実質的に技能を上げるしくみの検討が必要です。
 それから、組合員を組織化して安定化させるには、就労履歴システムは、皆さんには非常にチャンスだと思います。ようするにこれが完璧になると、これに登録してない人はたとえば現場に入れませんということになっていくわけですので、どこかに属さなければならなくなったら、労働組合で組織するのです。
 その中で、やっぱり組合を通して仕事先に派遣される労働者供給事業が一つのキーになると思います。アメリカのユニオンもドイツのマイスターも、突き詰めていくと供給事業なのです。そうでなければ個人でやっていて有給休暇など取れるわけがないのです。
 しかし、組合員が組合のIDを持ち、記録があるから、100日働いたからあなたの有給は何日ですというしくみが作れるのです。


週休2日で子どもの運動会にも行ける
賃金2倍で若者2倍に
世論に訴え夢ある建設業に

 次に技能は評価しなければなりません。組合の考え方としてはみんな平等ということもあるかもしれませんが、アメリカのユニオンでは極端な場合、努力もしなくて使う側から指名がこないような組合員をユニオンが解雇します。かわりに勉強などをがんばったら賃金が上がるしくみが全部用意されています。
 評価のために、大工のレベルを設定しました。ぜひみなさんに活用してほしいのですが、大工は見習い、標準、上級、熟練と4段階ぐらいに分けて評価します。ゆくゆくハウスメーカーはこれを採用するといっていますから、たとえば皆さんが今回供給する技能者は上級・熟練だから、標準に比べたら1.8倍の賃金ですといえるようにするしくみをつくっています。
 それから、教育訓練には教材(マニュアル)を整備することです。見ておぼえろから一人前には何年など明確な目標が必要です。アメリカのユニオンでは、1職種1個でなく作業ごとにマニュアルが全部あります。逆に、教える人の資質に左右されないようにマニュアル教育で教えることが徹底されています。
図4 あとは、皆さんがどういうモデルを示せるかです。親方になったらもうかるという将来の出口が、ほとんど今はなくなったというのが事実です。もっと問題なのは、賃金のピークが大工などのみなさんは若い時がピークになってしまっています(図4)。ですから10年で一人前、20年で熟練になったとしても、そこから賃金が上がらない、これは、体力のピークと賃金のピークが一致しているということです。これが50代まで上がれば、体力ではない所がちゃんと評価されるということで、これは大きな違いです。
 いいかえると、社員化、社会保険に入っているかということになっていくのだと思います。
 最後に夢のある目標ということで、賃金2倍です。そのためには生産性、稼働率は2倍にして、さらに休日を2倍にします。ベテランは「職人は休まないで稼ぐんだ」というのですが、若い人の第1位はなんといっても休み、それも定期的な休みです。子どもの参観日、運動会に行ける、その結果として若い人の入職が2倍、女性も2倍になってくれればということです。
 そして、組合は何を訴えますかということです。少なくとも業界に敵がいると思っていてはいけない時代です。訴えるべきは世論です。世論が賃上げを認めるようにしていかなければいけません。
 企業交渉でゼネコンとも一緒に手を組んで発注者からもらいましょうよという方向にならなければいけません。
 皆さんの強みは職人を組織しているということと、その人たちの訓練をして能力向上をきちんと図っていることです。この幹部学校で重点的課題を明らかにして、誰とタッグを組むかをぜひ考えていただきたいと思います。

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