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○  でたらめ答弁で成立した安保法と心配される自衛隊員の犠牲

東京新聞論説兼編集委員 半田滋
消えた「ホルムズ海峡」
成立へ「中国脅威論」あおり

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半田滋さん

 それは仰天の答弁だった。安全保障関連法(安保法)が成立する直前の昨年9月14日、参院特別委員会でホルムズ海峡の機雷除去について問われた安倍晋三首相は「現在の国際情勢に照らせば、具体的に想定しているものではない」と否定してみせた。
 安保法案をめぐる国会審議を通じて安倍首相は、集団的自衛権を行使する唯一の事例として挙げたのがホルムズ海峡の機雷除去だった。これを「想定できない」と根底からくつがしたのだ。質問したのは山口那津男公明党代表。土壇場になって与党のトップ同士が茶番劇を演じたと考えるほかない。
 なぜ否定したのか容易に推測できる。ホルムズ海峡に機雷を敷設する国は核開発を進めるイランを想定していた。しかし、イランは安保法案の国会審議の最中に主要6カ国との間で核査察に合意し、今年早早にも経済制裁が解除される。
 イランの天然ガス埋蔵量は世界第1位、石油埋蔵量は世界第4位、人口は8千万人近い。カネがあり、労働力もある魅力的な市場ということになる。各国がイラン詣でを始める中、イランを敵視する答弁をくり返せば、バスに乗り遅れてしまう、そう考えたに違いない。現に岸田文雄外相は10月になってイランを訪問し、欧州各国とは周回遅れながら投資協定を締結した。

行使は政権のさじ加減次第

 「ホルムズ海峡」が消えた結果、集団的自衛権行使は「総合的に判断する」(安倍首相)という時の政権のさじ加減次第となり、恣意(しい)的に発動されるおそれが高まった。
 同様のご都合主義は、中国が東シナ海で進めるガス田開発の公表にも現れた。法案が衆院を通過して6日後の昨年7月22日、菅義偉官房長官は東シナ海で中国が設置した16基のガス田施設の画像を公表した。
 このタイミングで公表した理由を問われ、菅官房長官は「(中国の)開発行為がいまだにやまず、一方的現状変更に内外の世論が高まってきているので、もろもろ考えて判断した」とのべたが、眉つばものである。
 そもそも日中が共同開発で合意したのは日中中間線に近い「春暁(日本名・白樺)」一基だけ。残りはいずれも中国側により踏み込んだ海域にあり、日本政府が開発中止を求める筋合いではない。「中国脅威論」をあおり、法案成立に弾みをつけようとする魂胆は見え見えだった。
 なりふり構わず、先を急いだ国会審議の結果、安保法は、安倍首相でさえ「国民の理解は深まっていない」と認める代物となった。それでも3月29日には施行される。


困難な「駆けつけ警護」
世界最強の特殊部隊すら失敗

IMAGE 短期的な変化は現在海外派遣されている自衛隊の任務が変更されることだろう。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)、ソマリア沖の海賊対処の二つである。
 一昨年5月、安倍首相は官邸の記者会見で日本の非政府組織(NGO)職員の絵をパネルで示し、「彼らが襲われても自衛隊は救うことができない」と訴え、「駆けつけ警護」の必要性を強調した。安保法が施行される以上、いざというときに首相官邸から命じられ、「できない」ではすまない。防衛省は南スーダン、ジブチで「駆けつけ警護」を行なうための追加の部隊や新たな装備が必要か検討を進めている。
 仮に「駆けつけ警護」を実施すれば、どうなるだろうか。一昨年7月、米海軍の特殊部隊「SEALs(シールズ)」がシリアで「イスラム国(IS)」に拉致された米人ジャーナリストと助手の救出を試みたが、失敗し、人質は2人とも殺害された。シールズはアルカイダの首謀者オサマビン・ラディンの居場所を急襲して殺害した世界最強の特殊部隊である。
 その最強の部隊でさえ、失敗した困難な任務を自衛隊が成功できるのだろうか。任務遂行には人質がどこにどのような状態でいるのか、武装集団の人数や武器はどのようなものか情報がきわめて重要になる。日本政府は昨年1月、ISによる拘束が判明した日本人2人の情報を入手できず、2人とも殺害された。
 安保法が施行されたからといって急に情報がふえるはずがない。日本政府はまず自らの情報収集力の不足という身の丈をしらなければならない。安易に「駆けつけ警護」を命じれば、邦人や自衛隊員を犠牲にするだけである。

拒否できぬ米国の要請

 中期的な自衛隊活動の変化は、11月に実施されるアメリカ大統領選挙の結果に関係する。だれが大統領になってもオバマ大統領ほど武力行使に慎重な人物はいない。次期大統領が地上軍派遣を決め、自衛隊派遣を求めたとして日本は断れるだろうか。また長期化するイラクとシリア空爆への後方支援を日本は拒否できるだろうか。
 安倍政権は昨年4月、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定した。自衛隊による米軍への後方支援は地球規模へと広がり、米国の戦争が日本の存立を脅かす事態と時の政権が判断すれば、自衛隊も米軍とともに戦うことが可能になった。
 改定ガイドラインと安保法で恒久的な対米支援を約束した以上、日本は米国からの自衛隊派遣の要請を断れるはずがない。安保法は自衛隊による幅広い分野での後方支援を認めている。さらに活動は「現に戦闘行為が行なわれている現場」以外にまで広がり、かつて禁止されていた戦闘地域での後方支援が可能になった。実質的に戦場と呼ばれる地域での米軍支援が検討されるだろう。


ISには自衛隊は敵
高まる武力行使の可能性

 しかし、米軍と戦うISからみれば自衛隊は米軍と同じ敵にあたる。輸送、補給のため長い距離を移動する自衛隊は格好の攻撃対象になりかねない。攻撃された場合、安倍首相は自衛隊は活動を休止するから「隊員のリスク」が高まることはないと主張する。途中で任務を放棄して米軍を見捨てることができるのか、また活動を休止しても襲撃がやむわけでないから結局、自衛隊は米軍とともに武器をとって戦わざるを得ず、武力行使に踏み切る可能性が限りなく高まることになる。
 短期的、中期的いずれの場合でも、過去に経験したことのないほどの危険な活動を求められる自衛隊。しかも首相、外務相、防衛相、官房長官のたった4人がメンバーで構成する国家安全保障会議(日本版NSC)で議論され、得られた結論はいずれも特定秘密に指定される。

平和な日本へ廃止以外ない

 安保法に基づく、自衛隊の海外活動は密室で決まり、詳細が公表されることはない。わたしたちは犠牲者が出て初めてコトの重大性を思いしらされるだろう。安保法を廃止する以外、平和な日本を取り戻すことはできない。

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