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○ どうみる東シナ海の緊張/孫崎享・元外務省国際情報局長に聞く

安保法廃止の世論を牽制
米は参院選前狙い日・印と合同演習

 中国海軍の艦船が6月9日、沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域を通航し、15日には鹿児島県沖の領海に侵入しました。政府与党は参院選で、この問題を安保法の正当化に最大限利用しようと躍起になりました。外務省情報局長でイラン大使も務めた孫崎享氏は、同10~17日に沖縄県東方海域で行われた日米印合同軍事演習が引き金になった可能性が高いと述べ、「参院選前というタイミングを狙って演習を行ったと考えざるを得ない」と指摘しています。

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 ――中国軍艦船が領海に侵入したと、政府やメディアは大騒ぎでした
 【孫崎さん】私も驚きました。日本ではあまり報じられませんでしたが、同時期に、米国、日本、インドによる合同軍事演習が尖閣諸島周辺の海域で行なわれていました。「スターズ&ストライプス(星条旗新聞)」で、中国海軍がインド軍艦船を追尾して日本の領海に侵入したとの記事を読み、「そういうことか」と理解しました。
 日中有事の際、インドが東シナ海に駆けつけるというシナリオはなく、同海域での合同演習は軍事的に何の意味もありません。中国政府にとってインドは中印戦争(1962年)の相手国であり、将来のライバルとして、日本以上に警戒感を持つ国。インド海軍が東シナ海の合同演習に参加すれば、中国海軍が警戒行動を取らないはずがないからです。特に最近の中国は、挑発には軍事で対応しようとする傾向があります。
 意味のない軍事演習を、なぜあえて、インドを交えて行なったのか。米国は参院選前というタイミングを計ったと考えざるを得ません。日中間の緊張を高める事態を招くことで、昨夏成立した安保法の廃止を訴える野党の主張に、国民世論がなびかないようにすることを狙ったと考えるのが合理的だと思います。
 ――中国海軍がインド海軍の艦船を追尾した行為については?
 【孫崎さん】敵対的な軍事演習が近海で行われた場合、自国軍艦船が相手を追尾し、情報を収集したり警告を発することは、普通に行なわれていることです。そういう事態を避けることこそ必要です。

有事には出動せず
緊張高まれば米に有利

 ――米国の利点は?
 【孫崎さん】日中の緊張が高まれば、(1)日本国内で集団的自衛権の行使容認が受け入れられやすくなる(2)日本の軍事費を増加させ、米国製のオスプレイやイージス艦を買わせることができる(3)沖縄辺野古新基地建設の推進に有利になる――などの効果が期待できます。
 テレビのワイドショーは「中国はけしからん」という内容ばかり。効果が出てきているのではないでしょうか。
 ――米国は巻き込まれたくないのでは?
 【孫崎さん】尖閣の有事には米軍は出動しません。領有権に関しては、日中のどちらにもくみしないという立場です。
 オバマ大統領が一昨年、尖閣諸島を「日米安保条約の対象」と述べ、多くの日本人は米軍が助けてくれると解釈していますが、その認識は十分ではありません。昨年改定した日米防衛協力指針では、日本の防衛は日本が「主体的責任」を負い、米国は補完、支援するとあります。まずは日本が対応しなければなりません。その結果、仮に、中国が尖閣諸島を支配したとすると、日本の施政下ではなくなり、安保条約の適用対象ではなくなります。
 実際、オバマは同日、尖閣問題で軍事行動に踏み切る「レッドラインはない」と述べています。また、米国の交戦権は連邦議会にあります。安保条約の条文上、議会が否決すればそれまで。直ちに原状回復するという北大西洋条約機構(NATO)条約と大きく異なります。

棚上げにし外交努力で

 ――領海侵入についての国内の議論をどう見ますか?
 【孫崎さん】これまで中国が軍艦を日本の領海に通航させなかったのは、国際法上できないからではなく、軍事的緊張を高めないよう、領有権問題を「棚上げ」にするという従来方針に沿っていたからでした。その点を見る必要があります。
 ――軍事衝突を避けるためにどうすべき?
 【孫崎さん】東シナ海での軍事演習はやるべきではありません。地球規模の市場で経済成長をめざす中国政府にとって、尖閣諸島をめぐる紛争は割に合わないこと。両国にはその他に領土紛争はなく、尖閣の領有権問題を「棚上げ」にすればすぐに解決します。
 しかし、現在の日本政府を見ていると、自分たちの国づくりのために、尖閣問題を最大限利用しているとしか見えません。そういうやり方では、尖閣の領有権さえ守れなくなることが懸念されます。

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