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○ 豊洲新市場問題を考える

都政問題研究家 末延渥史

 なぜ有毒物質に汚染された土地に築地市場が移転しなければならないのでしょうか。豊洲市場建設に関わる問題について都政問題研究家の末延渥史さんに寄稿していただきました。

未解決の土壌汚染対策
中央卸売市場として不適格

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豊洲新市場青果棟、「11月7日豊洲市場開場!」の看板は撤去された

 都民の食と食文化をささえる築地中央卸売市場の豊洲移転が大問題となっています。
 発端は、今年7月に行なわれた東京都知事選挙においてこの問題が争点の一つとして浮上したことで、あらたに都知事となった小池百合子知事が、選挙後、「いったん立ち止まって考える」と表明。その後、地下水のモニタリング調査(2017年1月中旬終了予定)が終了していず、調査結果を待たずに新市場を開設することに疑問を呈して、11月に予定されていた開場を、来年2月以降に延期することを発表。さらに、日本共産党都議団が、独自に調査を行ない、本来、盛り土されているとされていた市場棟の地下が地下空間となっており、しかもそこに大量の水たまりができていることを告発したことなどから、マスコミがいっせいにこの問題をとりあげることとなったのです。
 これはおおくの市場関係者や広範な都民が移転に異議をとなえ、反対運動がとりくまれるなど、都民世論が都政を動かしたものに他なりません。

予定地は都市ガス生成工場跡地

 もともと、この市場予定地は、東京ガスが都市ガスを製造するために、石炭からガスを生成していた場所で、一時は、工場から発生する煤煙が、対岸の中央区に飛散する公害の発生源となっていました。また、ガス生成過程で発生する有害物質によって土壌が汚染され、とりわけ、発生したタールを敷地内の露天のため池に放置していたことなどから、予定地は自然由来ではない、工場操業に起因する有害物質に汚染されることとなりました。
 実際に、土地譲渡にあたって東京ガスが実施した調査では、広範囲にわたってベンゼン、水銀シアン化合物、六価クロムなどの有害物質が地中から検出され、とりわけタールをためていた場所からは、環境基準の1500倍ものベンゼン、猛毒のヒ素が基準の49倍という高い汚染値で検出されることとなりました。
 また、東京都が設置した「豊洲市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」が行なった再調査では、地下水で基準の1000倍のベンゼン、80倍のシアン化合物、土壌からは1600倍のベンゼン、83倍のシアン化合物が検出され、さらには、東京ガスが環境基準の10倍としていた地点で1000倍ものベンゼンが検出されたり、東京ガスが土壌改良を実施した地点からも高濃度の有害物質が検出されるにいたりました。
 また、地下の有楽町層以下の地層について、東京都は有楽町層は地下水を通さない粘土層の不透水層であるので汚染漏れはないと強弁を重ねてきましたが、これについても、専門家からは有楽町層をつき抜けるゆりかもめ(新交通)の橋脚や水道管敷設のためのボーリングなどによる有楽町層の下までの汚染の危険が指摘されているのです。
 このように有害物質に汚染され、液状化が発生する土地が、食の安全を大前提とする中央卸売市場として不適格なことは明白です。

専門家不在の審議会で国も共犯

 また、東京ガスによる汚染対策で済ませようとしていた東京都は、日本共産党の調査や専門家会議の再調査によって土壌汚染が解決されていないという事実を突きつけられて、あらためて土壌改良を実施することとなりましたが、食品をあつかう卸売市場を想定していない土壌汚染防止法に準拠して対策を決め、改良工事を汚染物質が検出された地点や一定の深さに止めるなど、きわめて不十分なもので済ませたのです。
 さらに、中央卸売市場の整備計画の策定にあたっては、国の「食料・農業・農村政策審議会」の意見を聞くことが条件となっていますが、委員には土壌問題の専門家は一人もいず、豊洲新市場については1分科会で「交通事情」について議論されただけで、土壌汚染問題は議論に付されていないなど、国も共犯者の役割を果たしたのです。
 土壌対策をすませたから安全、開設は当然という態度は許されるものではありません。

莫大な費用かけ移転
大企業・都・国の思わく

 そもそも、東京ガスは、石原都政から土地譲渡の申し入れをうけた際、「弊社では、土壌の自浄作用を考慮したより合理的な方法を採用し、長期的に取り組む予定ですが、譲渡に当たりその時点での処理ということになれば、大変な改善費用を要することになります」として、予定地が深刻な土壌汚染に侵されていることを明らかにし、「弊社としては基本的に受け入れ難い」と譲渡を断っているのです。
 一方、市場関係者や地元自治体の側は、世界に知られた〃築地〃が消滅すること、中小の業者が排除され、「競り売り原則」が崩されること、交通不便な土地に移転することで買参人や都民の来訪を妨げることなどから移転に反対、築地での現地再整備をもとめ、東京都もこれを受け入れて現地再整備をすすめていたわけですから、新市場に移転する理由はまったく見当たりません。
 では、なぜ、食品を扱う市場を有害物質に汚染された土地に莫大な対策費用を投じてでも、移転させることとなったのでしょうか。

借金の穴埋めと流通資本の狙い

 第一に、財界・大企業の意向です。まず、大企業・大手デベロッパーの狙いです。築地市場は、銀座からの徒歩圏内にあり、大規模開発が先行したシオサイト(旧JR汐留操車場跡)にも隣接する都心に残された最後の大規模用地です。2016年オリンピック招致の際には、選手村として利用した後に超高層のツインタワーを建設する再開発計画が打ち出されました。
 また、大手流通業界は、現在の築地市場には参入できていません。そこで巨大な新市場をつくらせることで、市場参入を果たし、市場を通じた生鮮食品の流通を支配すること、また、市場内に自社の加工工場やパック詰め工場を設置することで、直接、商品を店舗に持ち込めるようにすることを目論んでいたのです。
 第二に、東京都の事情です。この移転計画は破たんした臨海副都心開発の救済でもありました。この点では、新市場予定地は臨海部の豊洲・晴海地区として開発計画が位置づけられていましたが、土地利用はまったくすすんでいませんでした。東京都は豊洲移転を奇貨として所有している都有地を市場予定地として売却することで臨海副都心開発の借金の穴埋めにしようと考えたのです。また、築地市場を移転させることで臨海副都心救済のためのアクセス道路である環状2号線を、従来の地下方式より安上がりな地上方式で通すことが可能となるからでした。
 第三に、国の思惑です。国はおりからの道州制導入とあわせて、地方自治体が運営する中央卸売市場を再編、道州に一カ所の基幹市場化をすすめていました。そこで豊洲新市場を東京、神奈川、千葉などを統合した基幹市場として位置づけ、東京都と一体となって推進したのです。これは大手流通資本の狙いと軌を一にしたものです。
 石原慎太郎元知事の突然の移転表明はこれらの思惑に応えたものに他なりません。

食の安全が最優先
築地現地再整備へ返る

 巨額な資金をつぎ込んだ新市場。東京都は専門家会議を再設置するなどの対応をすすめていますが、それは9年前に設置した専門家会議のメンバーを再び招集したもので、座長にすわったのは、前回座長を努めた人物です。今後、都民世論や都議会での追及などをうけて、一定の対応に迫られることとなることが想定されますが、最終的には、新市場の開場を認めることが想定されます。
 豊洲新市場に投じた資金は負の遺産として残されることになりその責任が問われなければなりませんが、いま、何よりも優先されるべきことは、食の安全です。この点で新市場は不適格です。
 対策を講じるといっても大規模な土壌改良をおこなうことは、すでに建てられた市場棟をいったん解体しなければならず、くわえて有楽町層より下の地層まで土壌改善をおこなうこととなれば、工期・費用など想像を絶するものとなることは明らかです。現在の築地での市場の再整備という原点にたちかえることが必要です。新都知事は「都民ファースト」と表明して都知事の座を得ました。大英断を下せるのかが問われています。

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