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○ 医療と介護からみる小池都政の実像

東京自治研主任研究員 安達智則

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東京都庁舎

 2月5日、けんせつプラザ東京で「地域医療構想で、医療、介護はどうなるのか?」(主催:私たちが求める医療と介護・福祉を実現する東京の実行委員会)の学習会が行われ、安達智則東京自治問題研究所主任研究員が「医療と介護からみる小池都政の実像」と題して報告しました。その一部を紹介します。

問題だらけの混合介護
保険化、市場化、縮小化を推進

 小池都政を考える上で、混合介護問題が重要だろうと思われます。
 公的介護保険改悪の方向性については3つのことが懸念されていると思います。一つは障がい施策を介護保険に取り込むことです。すでに今国会で準備されている地域共生型というのが障がい施策を介護保険につなごうということで障がい者運動にかかわる人たちは大変心配しています。「65歳の壁」ということではなく、前倒しで障がい施策の保険化、あるいは自己負担の強化の問題です。
 二つ目は混合介護そのものです。公的部分が減っていって自己負担部分がふえていく。これは国で言いますと厚労省だけでなく農水省や経産省も同時に保険外サービスを推進するという立場になっていて、ここに混合介護導入へ焦点が合致してきます。
 三つ目が、縮小化です。軽度ははずし、福祉用具もはずしていく介護の縮小化。それへ反対の社会運動があって朝日や東京新聞の社説でも「問題あり」と批判しました。厚労省でも「はずし」を小さくするのは仕方がないとなっていますが、そこにおさまらずに専門家から非専門家による「家事」支援という形で「総合事業」による住民相互支援体制づくりをまだ諦めているわけではありません。
 つまり「保険化、市場化、縮小化」というのが公的介護保険をめぐる焦点ということで動いていっているだろうと思います。

「在宅老人ホーム」を
保険外サービス狙う損保

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介護はどうなっていくのか

 では保険外サービスとはどんなものがあるのでしょうか。大手資本は、保険外サービスメニューを作って参入している真っ最中です。代表の一つが損害保険会社の損保ジャパン日本興亜ホールディングス(以下、SOMPO)。2016年10月1日の新聞全面広告で、SOMPOは介護、ヘルスケアも事業として位置付けるとしています。SOMPOは施設系の有料老人ホームも持っていたワタミ・メッセージを買収して、本業の損保だけでなく介護事業を全国展開しています。損保業界は昨年の決算で大手のいずれもが史上最大の黒字を出しています。そのSOMPOが始めたのが混合介護型24時間巡回サービスです。「在宅老人ホーム」というものです。夜間も含めて1日に数回、ヘルパーがやってきて介護、これは保険内。食事の宅配、掃除、洗濯、ちょっとした困りごと、これは保険外サービスです。これを組み合わせて月の負担は7~10万円で提供しましょうということをメニュー化して動こうということです。

ケアマネにメニュー宣伝

 混合介護はどうなるでしょうか。ケアマネ事業者に11、12月頃からファックスが届き始めて、ある介護サービスの事業者が「混合介護になります。なぜなら東京都が国家戦略特区という規制緩和を行なえるのを国に申し入れ、認められる様子になってきたのです」。介護サービス事業者が用意したのが、9万8000円コース、5万8000円コース、2万8000円コースです。365日ケアサービスをするので、ぜひご相談くださいというチラシがファックスで流れてくるのです。これは「介護は金次第」ということを露骨にチラシが示しています。国家戦略特区でメニューを作る介護事業者はこのようにしてケアマネの中に宣伝していきつつあるのです。

都に国の役人が常駐
東京全域を特区に指定

 では小池都政の中で混合介護というのがいつ踏み出すことになったのか。起点となったのは2016年11月4日、東京都と内閣府の「東京特区推進共同事務局」(以下、事務局)が設置されたことです。この事務局長に鈴木亘氏(学習院大学経済学部教授、小池都政を支える研究者と言われている)が就き、「東京都政改革本部」と「国家戦略特区ワーキンググループ」が連結しました。特別に規制緩和して患者申し出制度、外国人医師容認、保育士がいなくても保育士試験を複数回実施するなどの特別地域を作ってきたメンバー8人が東京都に常駐することになったのです。すでに東京都全域が国家戦略特区地域に指定されています。
 この常駐体制は大問題で、都政の中に国家の中枢機能を担う官僚が常駐するという事態は戦後初めてのことです。美濃部都政でも鈴木都政でも石原都政でもなかったことです。東京都の職員というのは、国の役人が来ることをものすごく嫌ってきたのです。それは政策上、私たちとは考えが違っても自分たちで事をすすめるというので、国の官僚は都政に降りてくるというのはほとんどなかった。

安倍規制改革に呼応して

 私たちも、国家戦略特区を本格化すると小池知事が言い出したので、おそらくその本部は内閣府の中にできると思っていました。内閣府の方に東京の特区推進本部ができるのかといったら、そうではなく、ここは小池知事の特徴であると思うですが、東京都庁の中に本部事務局を作って日々都政や国政の動きを点検しながら、何をやっていくのかを考える、いわば都政のコア、中枢部が事実上でき上がってきているということです。
 11月4日、事務局ができ、その週の7日、定例記者会見で国家戦略特区の取り組みを強力に進めると小池知事は発言し、翌日8日、安倍政権の規制改革推進会議の作業部会では混合介護の解禁に向けた議論に着手。これが実現すれば介護が必要な人とその家族の食事もまとめて作れるからいいではないかという美名のもとに混合介護を安倍政権は本格的に進めるという日程に入りました。
 11月10日、小池知事は介護施設を視察した際に、混合介護推進ということを表明し、「東京都がいち早く混合介護のモデルを示すということで準備している」と言ったわけです。11月11日の定例記者会見では、東京の国際金融都市化を成長戦略の中核にするというのを同時に提案して、これを重ねてみると、国家戦略特区による混合介護の解禁を東京が行なって、同時に東京の金融都市化を進め、その司令塔が他ならぬ事務局、その長が鈴木亘氏なのです。

「介護は金次第」か
地元の豊島区で先取り

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1面トップで豊島区での混合介護解禁を報じる1月16日付の日経新聞

 年が明けて、日経新聞1月16日付では「混合介護解禁東京豊島区で」と出てきました。豊島区は小池知事の出身の選挙区です。豊島区でやるということは強い政治的意思決定をしているということです。豊島区から混合介護を進めて、公的介護保険領域を小さくして市場化を行なっていく。他地域より自らの政治基盤である豊島区でやるのが、おそらく最も実現性が高いという判断があったのではないかと思われます。
 これはSOMPOなどが宣伝している9万8000円や2万8000円というメニューが出てくるかは別として、混合介護はお金がある中堅層や上層以上はいいのでしょうが、国民年金生活者以下のところになると、使い勝手は非常に悪い。医療難民、介護難民と言われる人がすでに存在している中で、混合介護になると低所得者層、社会的弱者を中心に新たな介護難民が飛躍的にふえることになるわけです。と同時に金を持っている人はもっと自由になるというわけです。こういう転機になるのではないか。もっと露骨に言うと、「介護は金次第」となるのではないかということです。

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