下丸子・矢口
多摩川線下丸子駅下車
なくなった町工場  ― 多摩川も散歩コースに ―

【大田・電気工・斎藤勝重記】
 私が田舎(青森市)の中学校で習った「京浜工業地帯」。煙突がニョキニョキはえた写真を、社会科の教科書でみた記憶がある。しかし30年前、はじめてこの街に来たとき「何となく違うなー」と感じた。
 全体に低くスレートで葺いた屋根の建物から、ねずみ色の作業着を着た人が出てくるのだから、まさに「灰色の街」というイメージだった。
 その後、友人に連れられて映画『アッシーのまち』を観たとき、こんな感じと思ったものだ。大きな工場もあるにはあるが、それよりも小さな町工場がひしめき合うように建ち並び、プレスの音と油のニオイを充満させていた。夜、赤ちょうちんのノレンをくぐると、町工場のオヤジや建築職人であふれていた。まだカラオケが普及する前だったので、ためにもならない話を夜遅くまでしていたものだ。
 そんなこの街から、すべてといっていいほどの大きな工場が撤退、それにともない小さな工場も少なくなって、気がつけばあちらこちらにできた駐車場。今では分譲マンションが林立、赤ちょうちんがカラオケスナックに変わり、銭湯の煙突も1本また1本と姿を消していった。なぜか歯医者と焼肉屋がやたらとふえ、街も人もすっかり様変わりしてしまった。
 たしかに街並みは広々とし、色合いもカラフルに明るくなったような気がするし、生活も便利になったけど何か違う気がする。すべて昔が良かったとまでは言わないが、朝行きかう人たちのあいさつを交わす声が極端に少なくなった。まあ古くて新しい街になったということか、何十年かするとまた人々のふれあいがそこここにあふれることだろう。なんにせよ、私の大好きな街である。
 話は変わるがこの辺は神社がたくさんある。我が家から歩いて10分の範囲で8ヵ所もある。息子の高校受験のときは全部の神社に詣でたものだ。このほかにも多摩川の河川敷や、ほんの一部に残されたふるい町並みなど、散歩コースにはこと欠かない。